鉄の吸収はむずかしい

鉄はむずかしい栄養素です。

鉄は酸素の運搬役であると同時に、活性酸素をひきおこす危険な側面をもった諸刃の剣ともいえる栄養素です。

鉄に対する体の防御反応として鉄の吸収は巧妙にコントロールされています。

鉄を攻略できないといつまでたっても貧血が治りません。

ですから今日は貧血を改善するためのより実践的な知識とノウハウをご紹介します。

ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収における性質の違い

ヘム鉄の吸収

ヘム鉄は2価鉄(Fe²⁺)とポルフィリンと呼ばれる環状の有機化合物からできており、ヘムというタンパク質につつまれています。

Heme b
ヘム鉄
Porphyrin
ポルフィリン

ヘム鉄はこのポルフィリンが盾となり鉄イオンを覆っているため胃腸にダメージを与えることがありません。

さらに鉄の吸収を妨げるポリフェノール類(お茶のタンニン、カテキンなど)からの影響もポルフィリンがガードしているためにほとんどありません。

ですからヘム鉄の吸収率は高く一般的に食べ物にふくまれるヘム鉄の10~25%ほどが吸収されます。

さらにヘムオキシゲナーゼというヘム鉄分解酵素により吸収量が調節されているため鉄過剰になることもありません。

ただしヘム鉄であってもとりすぎてしまうと体内の鉄に対する防御機構が働きます。

具体的には、鉄調節ホルモンであるヘプシジンが増えて鉄の吸収率を下げ、体内を鉄過剰から守ろうとします。

このあたりの詳細はヘプシジンの記事で説明しています。

鉄吸収抑制ホルモン「へプシジン」-”炎症性貧血”を改善する2つの作戦

こうなってしまうと本来は短期間で鉄の吸収がすむはずが、鉄過剰によって鉄吸収率が大幅に下がりなかなか貧血が治らない牛歩状態になってしまいます。

  • ヘム鉄の吸収率:8~25%
  • タンニンなどと一緒でも吸収率が下がらない
  • たくさんとっても鉄過剰にならない(それでもとりすぎると吸収率は低下)

非ヘム鉄の吸収

非ヘム鉄の場合、ヘム鉄とはちがってFe²⁺、Fe³⁺(3価鉄で存在するほうが多い)という鉄イオンの状態で存在していますのでガードがありません。

そのため非ヘム鉄は胃腸にダメージを与えることがあります。

病院で貧血などの保険治療をして処方される鉄剤はすべて非ヘム鉄のため、飲んで胃が気持ち悪く感じたり吐き気がすることがしばしばあります。

鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の予防と治療のための指針 第一版ー使用しうる鉄剤
貧血で処方される主な非ヘム鉄

引用:鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の予防と治療のための指針 第一版

また非ヘム鉄にはガードがないため鉄の吸収を妨げるタンニンなどの影響を受けやすく、非ヘム鉄とお茶などを一緒にとってしまうと鉄の吸収率は大幅に下がります。

ヘム鉄に比べて非ヘム鉄の吸収率は低く、3~8%ほどしか吸収されません。

また吸収量を調節する酵素も存在しないため、非ヘム鉄の鉄剤・サプリメントを過剰にとると鉄過剰におちいることがあります。

非ヘム鉄もヘム鉄と同様にとりすぎるとヘプシジンがふえて鉄吸収率が下がります。

ですから鉄の吸収率を下げない適量をとることが重要です。

  • 非ヘム鉄の吸収率:3~8%
  • タンニンと一緒だと吸収率が下がる
  • たくさんとると鉄過剰になり吸収率が低下

ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収ルートは異なる

ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収されるルートは微妙に異なっています。

ヘム鉄

ヘム鉄はヘム部分に小胞体を形成することで腸内に入ったあとヘムオキシダーゼとよばれるヘム鉄分解酵素に消化されて2価鉄イオン(Fe²⁺)となります。

その後にHCP1(heme carrier protein1)というヘム鉄輸送体によって運ばれてフェリチンにとりこまれます。

非ヘム鉄

一方、非ヘム鉄は2価鉄と3価鉄があります。

3価鉄イオン状態で存在する非ヘム鉄(Fe³⁺)は腸管上皮細胞の腸管内腔側細胞膜上にあるDcytb( duodenal cytochrome b)によって2価に還元されます。

こうして吸収されるときにはすべて2価鉄となった非ヘム鉄は濃度差を利用して腸内に入ります。

その後にDMT1(Divalent Metal Transporter 1)とよばれる非ヘム鉄輸送体によって腸管細胞質内にはこばれてアポフェリチンと結合しフェリチンとなります。

こうしてフェリチンにとりこまれたヘム鉄・非ヘム鉄は細胞を横切って測底膜まで移動し血液中にとりこまれます。

食品・栄養食事療法辞典ーヘム鉄と非ヘム鉄の吸収

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー腸管上皮細胞における鉄吸収機構
引用:慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療

食べ物からの鉄は過剰がおこりにくい

鉄過剰を考える上では、あなたの日常でどれくらい鉄食品をとりそのうちどれくらいが吸収されているのか気になりますよね。

そこであえて詳細に食品名をあげて例を示すことにします。

ヘム鉄

今、あなたの身体が1mgしか鉄を必要としないあまり貧血がひどくない状態だと仮定しましょう。

そこで牛ヒレ肉を山盛り400g食べたとしたら、下の表から牛ヒレにふくまれる鉄量は100gあたり2.8mgですから4倍して合計11.2mgほどのヘム鉄がとれることになります。

ヘム鉄は25%ほど吸収されますから2.8mgほどの鉄が吸収されることになります。

ところがこれは体が必要としている吸収量である1mgを越えています。

ただ、越えているといっても1.8mgだけ。

この余剰分は便や尿とともに排泄され、鉄過剰のダメージはほとんどありません。

非ヘム鉄

植物性食品から非ヘム鉄をとる時もほぼ同様です。

仮に大根葉を山盛り200g食べたとしましょう。(かなりレアなケースですけどね)

食べようとがんばれば無理な数字ではありません。

ちなみに市販されている小松菜や春菊などの1袋が100g超くらいですから目安になるかもしれません。

大根葉の鉄含有量は下の表から100gあたり3.1mgの非ヘム鉄をふくむことが分かります。

ですから200gの大根葉にふくまれる非ヘム鉄の量は6.2mgです。

これに加えて納豆も1パック(40g)食べたとすれば、納豆の鉄含有量は下の表より100gあたり3.3mgですからさらに1.3gの鉄をとることになります。

さらにがんもどきを50g食べたら、がんもどきの鉄含有量は下の表から100gあたり3.6mgですからさらにさらに1.8mgの鉄が加わります。

大根葉・納豆・がんもどき3つ合わせた鉄量は6.2+1.3+1.8=9.3mgの植物性鉄分をとることになります。

ここで一つヘム鉄とちがうのは、非ヘム鉄の場合は

  • 強酸環境
  • ビタミンCとともにとる

ことで非ヘム鉄(3価鉄であることが多い)が2価鉄に還元され吸収率が上がります。

ですからあなたの胃腸に不具合がなく胃酸が十分出ており、ビタミンC食材とともにとれば非ヘム鉄は3~8%吸収されるので(約5%と仮定します)0.47mgの植物性鉄分がとれます。

吸収される鉄の量は1mgですから0.47mgの全てが吸収されます。

もちろん鉄過剰にはなりません。

こうして考えると、非ヘム鉄はヘム鉄とあわせて鉄分を補給するのによいバックアップをしてくれることがわかります。

吸収率が低いからといって非ヘム鉄をあなどってはいけません。

ちなみに食品からの鉄分が鉄過剰にならないのはヘム鉄でも非ヘム鉄でも同じです。

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー食品群別鉄含有量(第2群魚類1)

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー食品群別鉄含有量(第2群魚類2)

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー食品群別鉄含有量(第2群肉類)

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー食品群別鉄含有量(第2群豆類)

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー食品群別鉄含有量(第3群野菜類)

引用:慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療

鉄剤・非ヘム鉄サプリメントは鉄過剰がおこりやすい

これがサプリメントになると話は変わってきます。

ヘム鉄

サプリメントからとる鉄がヘム鉄である場合、過剰症はおこりにくいとされています。

これは先に説明したヘム鉄食品の場合と同じ理由です。

非ヘム鉄

非ヘム鉄の場合は注意が必要です。

鉄剤

医師が処方する鉄材であるフェロ・グラデュメット(徐放性硫酸第一鉄)の薬品情報の禁忌欄には

禁忌:次の患者には投与しないこと 
鉄欠乏状態にない患者〔鉄過剰症をきたすおそれがある〕

引用:フェロ・グラデュメット錠105mg

という内容が掲載されています。

同じくフェロミア(クエン酸第一鉄)の添付説明書には

【使用上の注意】

鉄含有製剤(鉄剤、MRI用肝臓造影剤等)投与中の患者
〔 過剰症を起こすおそれがある。〕
 

これは鉄が満たされている状態で飲み続けると鉄が体内で過剰に蓄積する可能性を示しています。

ほとんどの鉄材がこのような過剰症による危険性の側面をもっています。

鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の予防と治療のための指針 第一版ー使用しうる鉄剤

引用:鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の予防と治療のための指針 第一版

しかも重度の貧血状態になればなるほど鉄過剰によってヘプシジンがいっそう増加し鉄の吸収率は激しく低下します。

さらに体内で何らかの炎症があればやはりヘプシジンが増加していますからなおのこと鉄吸収が難しくなります。

この辺はヘプシジンの記事で説明済みです。

鉄吸収抑制ホルモン「へプシジン」-”炎症性貧血”を改善する2つの作戦

サプリメント(フェロケル)

こうした事情はアミノ酸キレートされた非ヘム鉄サプリメントであるFerrochel(フェロケル)でも同様です。

フェロケルは医師が処方する非ヘム鉄の鉄剤にあるような腹痛・吐き気などの副作用がなく吸収率が高いサプリメントとして人気があります。

しかもFerrochelの吸収率は硫酸鉄の2倍ほどとされており、鉄剤よりも人気があるのもうなずけます。

 Iron absorption from ferrochel was about twice the absorption from ferrous sulfate
(フェロケル鉄の吸収率は硫酸鉄の2倍であった)

Iron bioavailability in humans from breakfasts enriched with iron bis-glycine chelate, phytates and polyphenols.

しかしフェロケルの場合はヘム鉄や一般的な非ヘム鉄とは異なる経路で小腸内に入っていきます。

フェロケルは2価鉄とビスグリシン酸というアミノ酸から構成されています。

ferrochel(フェロケル)の化学式
「フェロケルの化学式」 フェロケルは2価の鉄イオンとビスグリシン酸から構成されている

引用:Look For Chemicals

ヘム鉄・一般的な非ヘム鉄はあくまで鉄として小腸内に吸収されるのですが、フェロケルはアミノ酸として吸収されます。

フェロケル:「アミノ酸だから安全だよ、腸の中に入らせてね」

腸:「鉄じゃなくてアミノ酸なのか。じゃたくさん入っていいよ」

本来は危険である鉄をある意味で腸をだまして侵入させているわけです。

ですから小腸内にたくさん入りこむことができるのです。

このような工夫があるからフェロケルは吸収率がとても高いのです。

実際あちこちで「フェロケルを飲み始めたらよく吸収されて貧血が治った」という高評価を聞くことができます。

私の身の回りでもフェロケルを飲んで貧血が改善した女性はたくさんいます。

ところがもし鉄過剰状態であったり炎症があったりするとヘプシジンが増えて鉄吸収率が下がりフェロケルであってもそれほど吸収することができなくなります。

ここで問題なのは、”フェロケルの場合吸収されていなくても腸内に蓄積されてしまう”ことです。

このような流れで小腸内にたまったフェロケルは本来のフェリチン(貯蔵鉄)とは異なったものです。

つまり、本来の鉄貯蔵ルールを無視した形で小腸に貯蔵されることになります。

このようなケースにおいて血液検査でフェリチンを測定すると、腸内にたまったフェロケルがフェリチンとして測定されてしまうケースがあります。

小腸の内面積はだいぶ広いですから、フェロケルはヘム鉄のサプリメントとは異なり小腸内で無限に増加していきます。

下図の左の図は硫酸鉄(非ヘム鉄)の小腸における吸収です。

それに対して右の図はフェロケル(非ヘム鉄)の小腸における吸収の様子です。

ferrochel iron
引用:IRON OF THE NEW GENERATION

赤いフェロケルが小腸の粘膜細胞内にたまっているのが確認できます。

腸に炎症があったり鉄過剰傾向がでたりするとフェロケルは吸収されないままこのように小腸に蓄積するため鉄過剰になってしまいます。

同じ非ヘム鉄でもこれだけの違いがあります。

このようになんらかの吸収障害があるケースでのフェロケルによるフェリチンの急上昇は決して望ましいものではありません。

このようなことにならないためにも適量をとることが必要になります。

ただし、勘違いしてほしくないのはフェロケルが悪いのではなくフェロケルをうまく使いこなせないことが問題だという点です。

炎症があるにもかかわらず多量の鉄をとっているのはフェロケルのせいではなくあなたの責任です。

フェロケルを吸収できないあなたの体には何らかの原因が隠れています。

鉄の性質をよく知らなければこのような鉄過剰の危険がいつでもあなたに迫ってきます。

「だったらヘム鉄サプリメントだけをとれば鉄過剰にならないから大丈夫」

という単純な話ではありません。

ヘム鉄だろうと非ヘム鉄だろうと鉄過剰になってしまうような鉄量をとるならそこから新たな問題が発生します。

便といっしょに排泄されるヘム鉄の過剰分がかなりあるなら、無駄になっている量が多い可能性があります。

そうなるとヘプシジンが増加するわけです。

もしあなたに吸収障害がなければ、適量のFerrochelは吸収率も高くすばらしいツールです。

サプリメントのせいにしてはいけません。

あくまで自分の体質と摂取量を把握することが大切です。

理想的な鉄サプリメント・鉄剤の選び方

ほとんどの鉄サプリメント・鉄材は5~100mgと幅広い量が用意されていますが、基本的には大容量です。

鉄剤の鉄量は上で取り上げた表に掲載されていますので確認できるかと思いますが、ほとんどが100mgのようなものばかりです。

ここで硫酸鉄(非ヘム鉄)を例として鉄の吸収を考えていきましょう。

  • 硫酸鉄(5mg)を単独でとった時の吸収率-約2.9%
  • 硫酸鉄(5mg)をタンパク質とともにとった時の吸収率-0.9%

という一例が下の表に掲載されています。

effect of food on absorption of iron salt and of hemoglobin iron by healthy subjects
IRON ABSORPTION. IV. THE ABSORPTION OF HEMOGLOBIN IRON*

 

硫酸鉄は非ヘム鉄であり空腹時に単独で飲んだほうが吸収率が上がります。

しかし吐き気や胃痛などの副作用がおきやすく、かといって食事とともにとると吸収率が下がってしまいます。

しかも硫酸鉄の吸収率は一けた台と低めです。

これがヘム鉄になると話は変わってきます。

ヘム鉄はそれ自体がタンパク質で包まれている構造からも分かるようにタンパク質との親和性が高く、タンパク質とともにとることで吸収率が上がります。

上の表からヘム鉄の吸収率と食事の関係も分かります。

  • ヘム鉄(3.8mg)を単独でとった時の吸収率-15.2%
  • ヘム鉄(5.1mg)を単独でとった時の吸収率-11.2%
  • ヘム鉄(3.3mg)を1.4mgの鉄をふくむタンパク質とともにとった時の吸収率-15.8%
  • ヘム鉄(5.1mg)を4.4mgの鉄をふくむタンパク質とともにとった時の吸収率-20.6%

硫酸鉄よりも高い鉄の吸収率であることが分かります。

さらに、ヘム鉄の吸収率は単独でただ量をふやしてとるだけでは増加せず、鉄をふくむ食事(タンパク質)を一緒に多くとることではじめてヘム鉄の増量が吸収率の上昇につながっていくことも分かります。

こうしてくらべるとヘム鉄と非ヘム鉄の吸収における性質の違いや、硫酸鉄よりヘム鉄が優位にあることがよく分かります。

重度の鉄欠乏では非ヘム鉄の吸収率が飛躍的に高くなる

ところがこうしたヘム鉄・非ヘム鉄の性質も、鉄欠乏時にはまったく事情が変わってきます。

下の表は鉄欠乏がある人のヘム鉄の吸収率と硫酸鉄(非ヘム鉄)の吸収率を調査したものです。

  • 鉄欠乏がある人のヘム鉄吸収率の平均-15.6%
  • 鉄欠乏がある人の硫酸鉄(非ヘム鉄)吸収率の平均-55.1%

鉄欠乏時は非ヘム鉄の吸収率のほうがヘム鉄よりも圧倒的に高いことが分かります。

非ヘム鉄の吸収率は一般的に3~8%ですから鉄欠乏時に吸収率が大幅に上昇していることになります。

absorption of hemoglobin iron(5mg) and of ferrous sulfate(5mg)by subjects with iron-deficiency anemia
IRON ABSORPTION. IV. THE ABSORPTION OF HEMOGLOBIN IRON*

鉄吸収調節ホルモン「ヘプシジン」により鉄欠乏時には鉄の吸収率が上がることはすでに説明しました。

これは逆も同じで、鉄が体内に十分満たされているときは鉄の吸収率を低下させることで鉄過剰から体を守るホメオスタシス(恒常性維持機能)が働いています。

鉄吸収抑制ホルモン「へプシジン」-”炎症性貧血”を改善する2つの作戦

これに加えて、先ほどふれた非ヘム鉄の隠れた機能性に注目です。

「重度の貧血時には非ヘム鉄(無機鉄)の吸収率が大幅に高まる」ことは厚生労働省の「微量ミネラル」の詳細にも記載されています。

 鉄、特に無機鉄の吸収率は、鉄の必要状態が大きい場合に高まる。

日本人では、鉄摂取に及ぼす植物性食品、すなわち無機鉄の寄与が大きいため、鉄の吸収率が15% 以上に高まっていることは十分予想できる。

しかし、吸収率が高まっていたとしても、それは鉄の摂取量の少なさに由来するものであるため、吸収率には、十分量の鉄摂取が達成できている場合の数値としての15% を採用
した。

引用:「微量ミネラル」厚生労働省

この説明と上の表からも分かる通り、鉄欠乏時の無機鉄(非ヘム鉄)の吸収率は15~50%以上まで大きく上昇します。

ですから鉄欠乏が深刻でひどい貧血に悩むあなたは、まずはヘム鉄をとるよりも無機鉄(非ヘム鉄)をとることをおすすめします。

無機鉄(非ヘム鉄)をとってあるていどフェリチンなどが上がってきたら、食事からのヘム鉄も加えて鉄量を維持していく流れが一番理想的です。

非ヘム鉄の吸収率が大幅に高まっているために少ない量の非ヘム鉄でも十分に吸収することができます。

フェリチン(貯蔵鉄量)が低い、つまり鉄欠乏が強いほど鉄の吸収率が高いことを示すデータをもう一例載せておきます。

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Fig-1-Correlation-between-iron-absorption-and-serum-ferritin-Iron-was-given-either
縦軸:鉄の吸収率 横軸:フェリチン(貯蔵鉄)

Acute inhibition of iron absorption by zinc

鉄の補給は少量が基本

また先ほどの表を見てもう一つ気が付いてほしいことがあります。

それはヘム鉄でも硫酸鉄(非ヘム鉄)でも5mgとかなりの低量を使っていることです。

effect of food on absorption of iron salt and of hemoglobin iron by healthy subjects
IRON ABSORPTION. IV. THE ABSORPTION OF HEMOGLOBIN IRON*

それでもヘム鉄15.6%、硫酸鉄(非ヘム鉄)55.1%という高い吸収率がでています。

じつはこの低量が重要なポイントです。

鉄の吸収率は低量であるほど上昇します。

下のグラフは40mgと240mgの硫酸鉄(非ヘム鉄)を摂取したときのTS(トランスフェリン飽和度)、ヘプシジン(鉄吸収調節ホルモン)、フェリチン(貯蔵鉄)の変化をあらわしたものです。

amount of iron affects hepsidin&ferritin

Oral iron supplements increase hepcidin and decrease iron absorption from daily or twice-daily doses in iron-depleted young women

上段ではトランスフェリン飽和度(TS:Transferrin Saturation)の上昇が示されています。

トランスフェリン飽和度とは鉄が吸収されたのちトランスフェリンという鉄輸送タンパクと結合した比率をあらわし、鉄の吸収量をみるための一つの指標になっています。

硫酸鉄40mgの投与ではトランスフェリン飽和度は最高約55%まで上昇し、硫酸鉄240mgの投与ではトランスフェリン飽和度は最高約75%まで上昇しています。

つまり摂取する鉄を増やすにつれてゆるやかに鉄の吸収量が高まることが分かります。

注意してほしいのは、上段だけ見ると鉄量が多いほうが吸収量が多いのですがこれを吸収率と勘違いしてしまいがちな点です。

あくまで体内に吸収された鉄の総量が、40mgよりも240mgの硫酸鉄をとった時に多くなるということです。

中段ではヘプシジンの値が示されています。

硫酸鉄40mgの投与ではヘプシジンは最高約2nMまで増加し、硫酸鉄240mgの投与ではヘプシジンは最高約10nMまで増加しています。

見逃せないのはこれらのヘプシジンの増加が上段のトランスフェリン飽和度の増加後すぐにおきている点です。

鉄の吸収量が大きく高まった後にヘプシジンが大きく増加していることが分かります。

このように体はヘプシジンを増加させることでその後の鉄の吸収率を下げ鉄過剰を防いでいます。

さらに硫酸鉄40mgの投与ではヘプシジンの上昇が1回のみであるのに対して、硫酸鉄240mgの投与ではヘプシジンの増加が3回もおこっています。

つまり摂取する鉄量を増やすにつれてヘプシジンはより増加し、増加頻度も高まることが分かります。

これも鉄過剰を防ぐためのものと考えられます。

下段ではフェリチン(貯蔵鉄)の値が示されています。

硫酸鉄40mgの投与ではフェリチンは最低10μg/L~最高約18μg/Lまで上昇し、硫酸鉄240mgの投与ではフェリチンは最低15μg/L~最高約38μg/Lまで上昇しています。

しかし最終的にはどちらも最初のフェリチン値を下回っています。

グラフの変化から摂取する鉄量が増えるほどフェリチンは大きく増加・減少することが分かります。

よく見るとフェリチンの激しい変化はヘプシジンの上昇がおこった後に起きています。

このようなヘプシジンの激しい増加があるとフェリチンの値は安定せずに、大きく増加してもその後また大きく低下することになります。

ヘプシジンが大きく上昇しないような鉄量の摂取こそ体にとって望ましい鉄補給の在り方です。

そういった意味では硫酸鉄40mgの摂取でも一度だけヘプシジンの大きな上昇がありその後にフェリチンが減少傾向を見せているので、まだ無駄があると言えるでしょう。

このケースの場合、40mgよりももっと少ない硫酸鉄をとることでヘプシジンの上昇がおこらずにフェリチンが右肩上がりに上昇することが予想されます。

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鉄過剰があるとその後3日間は鉄吸収率が低下

上のグラフからヘプシジンの上昇がおきた後にフェリチンの減少傾向があることは分かりました。

しかし上のグラフからは、このフェリチンの減少傾向が続く期間は

「3日以上は続いていそうだな」

ということしか分かりません。

しかし鉄過剰がおきた後にヘプシジンが増加するとその後2~3日間は鉄吸収率が下がることがすでに明らかになっています。

血清鉄は、腸上皮細胞、肝細胞、そしてマクロファージの3種類の細胞の膜表面に存在する鉄輸送体フェロポーチンを介して血中に供給されている。

フェロポーチンは生体では唯一の鉄輸送膜タンパクであり、ヘプシジン-25のN端末と結合し、細胞内部に移行されライソゾームで両者ともに分解される。

フェロポーチンが膜輸送タンパクとして新規に合成されるまでに2~3日を要し、その間フェロポーチンの分布密度が低下しているため、血中へ鉄を供給することができない。

つまり、一旦ヘプシジン-25産生が亢進すると、鉄を回転利用できない時間が続くことになり、細胞内には鉄が蓄積されることになる。

引用:「新しい鉄代謝のバイオマーカー:ヘプシジン-25」 友杉直久 金沢医科大学

ですからむやみやたらに大量の非ヘム鉄サプリメントや鉄剤をとることはとても効率が悪く体に負担をかけるやり方となります。

これはヘム鉄でも同じことで、鉄過剰の害がないからと多量のヘム鉄をとれば非ヘム鉄と同様にヘプシジンの増加によってフェリチンの上昇により長い期間を費やします。

「それでもフェリチンは上がっていくんだから問題ないんじゃない?」

いえいえ、そんなことはありません。

ヘプシジンが増加して鉄の吸収ができず血中に鉄が届かない状態でフェリチンだけが増えるのは危険です。

その鉄は主に悪玉菌などの細菌やがん細胞などにわたってしまう可能性があります。

自分の貧血度合いがどれくらいか、炎症があるか、他の病気にかかっているか?

そうした総合的なことをふまえて適切な鉄摂取量を決めることが大切です。

一時的な体内鉄量の増加を目指すよりも、貧血が治る期間を短くするためのより少ない鉄量を見出すことに重点をおいてください。

そうでないとあなたが貧血で苦しむ時間がいたずらに長くなりかねません。

重度の鉄欠乏性貧血時には「非ヘム鉄を少量補充」が正解

以上のことをまとめると、

「重度の鉄欠乏性貧血には非ヘム鉄を少量だけ補充」

するのが正解です。

1日に吸収できる鉄の量は基本的に1mgで、運動をおおくする人や月経で鉄が排出される女性でも2~3mgほどが吸収量の限界です。

一時的にこれ以上吸収することもできますが、それは体内の鉄ホメオスタシスのバランスを崩すことになりヘプシジンが増加して鉄吸収率が下がるため結局あなたが損をします。

仮にあなたが1日2mgの鉄を吸収する必要があると仮定しましょう。

もしあなたが重度の貧血であれば鉄の吸収率は50%を越えています。

ですから鉄吸収率を50%と仮定すると、2mgの鉄を吸収するためには4mgの非ヘム鉄があればいいことになります。

(実際はもう少し少なくてもいいかもしれません)

これはあなたが思う以上に少ない量ではありませんか?

重度の貧血ではないのなら、鉄の吸収率はもう少し下がりますので非ヘム鉄量ももう少し多くしていきます。

何度も繰り返しになりますが、多すぎるとデメリットが大きくなるので少しずつ増やしていってください。

少ないほうが吸収率が高いですからメリットは十分にあります。

非ヘム鉄を多くふくむ食品

この程度の少ない非ヘム鉄をとるだけならサプリメントは必要ありません。

(どうしてもサプリや鉄剤でとりたいなら、非ヘム鉄の錠剤を割ったりカプセルを開けて量を減らしたりして少ない量でとることをおすすめします。)

非ヘム鉄食材である野菜からとればよいのです。

おすすめの非ヘム鉄野菜

おすすめは

  • よもぎ
  • ふだんそう
  • 大根葉
  • 菜花
  • つるな
  • 小松菜
  • すぐき菜
  • からし菜
  • サラダ菜
  • かぶ葉
  • 京菜

こうした野菜をとることで100gあたり2mg以上の非ヘム鉄をとることができます。

うまく組み合わせてあなたに必要な非ヘム鉄を毎日とることで重度の貧血も最短で解消できます。

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー食品群別鉄含有量(第3群野菜類)
引用:慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療

鉄マグ欠乏症ー食品100gあたりの鉄含有量
引用:鉄マグ欠乏症

おすすめできない非ヘム鉄野菜

おすすめできないのはひじき・豆類・ほうれん草・長ネギ・種実類・プルーンです。

ひじきの鉄分は100gあたり6.2mgと多くふくまれていますが、鉄なべで煮出した後に残留する少量のタンニン様物質の存在と、海藻類全般が腸での鉄吸収がしにくいことにより鉄吸収はほとんど期待できません。

ひじきの「ヒ素」が危険?!-イギリス・日本政府の見解とは

豆類は消化が難しく腸での栄養吸収があまりできないためほとんど期待できません。

ほうれん草・長ネギなどのシュウ酸を多くふくむ植物は鉄の吸収を妨げます。

種実類のゴマ、エゴマ、アーモンド、カシューナッツは脂質が多いため豆類と同様に腸での栄養吸収が難しくおすすめできません。

ただしゴマをすりつぶして使うと吸収されやすくなるので組み合わせてみてください。

プルーンに至っては「鉄が少ない」から。

誰でしょうね、プルーンに鉄が多いなんて言ったのは。。

鉄は1度にとる量が少ないほど吸収率が高い

1日当たり4mgの鉄をとるために葉物野菜を食べるとすれば、1日何回食べればよいのでしょうか。

忙しいあなたは一度の食事でまとめて鉄のおおい葉物野菜をとってしまおうと思うかもしれません。

ところが実際は分けて食べたほうが吸収率は高くなります。

鉄投与量が増加すると鉄吸収量は減少する。

このため、通常は処方された鉄サプリメント1日分を一定間隔で2~3回に分けて摂取することが望まれる。

引用:「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省「統合医療」に係る情報発信等推進事業

鉄は1度にとる量が少なければ少ないほど吸収率が上がります。(吸収量じゃないですよ)

ですから同じ量をとるのであれば、1日2~3回に分けてとるほうが1回あたりの鉄量が少なくなるので鉄の吸収率が高くなります

説明のために先ほど紹介したグラフの上段のみを再掲載します。

amount of iron sulfate affects TS

 Oral iron supplements increase hepcidin and decrease iron absorption from daily or twice-daily doses in iron-depleted young women

この部分を見ると分かりますが、硫酸鉄の量が40mgから240mgと6倍増量になっていますが、それにともなって鉄の吸収量を示すTS(トランスフェリン飽和度)の最大値-最低値(上昇量)も6倍になっているでしょうか?

答えはNOです。

実際は6倍どころかTSはせいぜい1.3倍くらいにしか増えていません。

これは硫酸鉄の量が40mgから240mgに増えたことによって鉄の吸収率が大幅に下がったことが原因です。

ですからこれほどしか鉄の吸収量の伸びがないわけです。

もし同じ吸収率ならTS(トランスフェリン飽和度)がもっと高くないといけません。

こうした知識を利用して少ない負担で貧血解消できるよう工夫してみてください。

非ヘム鉄の吸収を抑制・促進する物質

最後に非ヘム鉄の吸収を邪魔する、あるいは鉄の吸収を助ける食べ物・栄養素をご紹介します。

(ヘム鉄の場合は気にしなくて構いません)

鉄の吸収を抑制・促進する物質一覧3

非ヘム鉄の吸収を抑制

フィチン酸やタンニンは有名ですが、ポリフェノール類やリン酸は忘れてしまいがちなので鉄吸収を下げてしまわないようご注意ください。

サプリメントでウコン(クルクミン)・エピガロカテキン(EGCG)をとっていませんか?

玄米に入っているのはフィチン酸ではなくフィチン酸塩ですが、フィチン酸塩であっても腸内でほかのミネラルと再結合して排出してしまうことがありますので要注意です。

さらに玄米の食物繊維はとても硬く鉄(あらゆるミネラル)の消化吸収を妨げます。

マルチビタミン剤などに入っているミネラル・ポリフェノール類も要チェックです。

非ヘム鉄の吸収を促進

逆に鉄吸収率を上げるために積極的にとってほしいのがタンパク質・炭水化物・クエン酸・ビタミンCです。

梅は上の鉄含有量のグラフを見ると100g当たり0.6mgと鉄含有量は多くありませんが、クエン酸をふくんでいるので全体的な鉄の吸収率を上げてくれます。

ぜひ梅干しを毎日食べてください。

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アルコールは鉄の吸収量をあげますが同時に亜鉛やマグネシウムなどの重要なミネラルを排出しますのでおすすめしません。

 

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