スポーツ貧血とは

長時間の激しい運動を定期的に行う人に見られる貧血を、一般的な貧血と区別して「スポーツ性貧血」と呼んでいます。

特にランニングのような持久競技をおこなう選手にスポーツ性貧血がよくみられます。

モントリオールオリンピック代表選手における調査では、男性の7%・女性の32%に貧血が認められたことが報告されています。

なぜスポーツ貧血になるのか?

運動選手に鉄欠乏性貧血が多いことはよく知られています。

体重コントロールのための食事制限

たとえば、競技力アップのために体重コントロールが必要な競技もたくさんあります。

  • バランス力アップ
  • スピードアップ
  • 階級を下げて有利に戦う

こうした理由により食事量が制限された結果、鉄の摂取量が不足します。

筋肉量の増大

瞬発・スピード系の競技では筋肉量により競技力が決まる部分があります。

筋肉量の増大にともない多量の血液や赤血球が必要となります。

こうして赤血球などの材料となる鉄も多く消費されることになります。

過激な運動による多量の発汗

またパワー系・超持久系の競技などでは多量の筋肉トレーニング・長時間の持久トレーニングが必要となります。

その結果、多量の発汗により鉄が排出されます。

ヘモグロビン尿(血尿)

何らかの原因により短時間に多量の破壊された赤血球が増えてしまいます。

その結果、肝臓や脾臓での処理が追いつかず血漿中に遊離へモグロビンが血中にあふれます。

この遊離ヘモグロビンが腎臓から排出されたのがヘモグロビン尿です。

ヘモグロビン濃度の低下でどんな症状が起きる?

へモグロビン(Hb)の基準値は

  • 男性:13.6~18.3 g/dl
  • 女性:11.2~15.2 g/dl

くらいが一般的な正常値とされています。

ところがスポーツ貧血になるとヘモグロビン濃度は大幅に低下します。

ヘモグロビン濃度が下がっていくとどのような症状が起きるのかを示したのが下の図です。

運動・栄養・健康-ヘモグロビン濃度と症状
引用:運動・栄養・健康

ヘモグロビン濃度が下がれば下がるほどたくさんの不調に悩まされることになります。

この状態でスポーツを続けるのはとても危険です。

スポーツどころかふつうの日常生活をおくることすら困難になっていきます。

こうなる前に必ず血液検査を年に数回行い、未然に鉄不足を発見しておくことがとても重要です。

ヘモグロビン が10 g/dlを切っていないか定期的にチェックしてください。

スポーツ貧血といえば「溶血」

あなたがジョギングを毎日していたり、長距離・マラソンランナーであるなら溶血については聞いたことがあるはずです。

溶血にはいろいろな種類があります。

ここではスポーツにおける溶血を説明します。

スポーツにおける溶血は、ランニング中に地面と足裏が強くぶつかる衝撃により赤血球が破壊されてしまい、その結果使えなくなったヘモグロビンが尿から排泄されてしまうような状況をさしています。

他にも空手の突き・蹴り、バレーボールのジャンプ後の着地など頻繁に強い衝撃を受ける行為で溶血がおこります。

その中でもマラソンは着地回数がずばぬけて多いために溶血がもっともおこりやすい競技です。

さらに女性であれば月経による出血もあるために、女性ランナーの貧血は大きな問題になっています。

運動・栄養・健康-貧血の発生要因
引用:運動・栄養・健康

運動により消化管からの鉄損失が増加

体へのストレスが高い高強度の運動や長時間の運動は消化管からの出血につながり鉄損失を増やします。

また痛み止めにアスピリンなどを飲んでいると、腸管からの出血を促し鉄不足につながることもあります。

アスピリンの成分であるアセチルサリチル酸にはこうした腸からの微量の出血をともなうことがあります。

こうした場合は量の調節が必要です。

持久系運動はIL-6を発生させ炎症をひきおこす

持久的運動をすると炎症性サイトカインであるIL-6(インターロイキン6)の血中濃度が増加します。

これにより体内の炎症度も増加します。

持久的運動によるIL-6の増加は、筋肉のダメージを判定する指標でもあるCPK(クレアチンキナーゼ)の増加と深い関係にあることが分かっています。

「持久的運動は血中IL-6を増加させ, その増加が運動24時間後のCPK濃度と相関が認められる」
持久的運動が血中IL-6濃度に及ぼす影響

このようにIL-6は筋損傷や遅発性筋肉痛に何らかの影響を与える可能性があります。

ですからIL-6の増加を抑えることが鉄欠乏・筋肉のダメージを減らすためには重要です。

IL-6の増加はヘプシジン増加につながり鉄吸収が妨害

IL-6の増加により鉄吸収調節ホルモンであるヘプシジンが増加することはすでに説明しました。

鉄吸収抑制ホルモン「へプシジン」-”炎症性貧血”を改善する2つの作戦

つまり

  1. 持久的運動によりIL-6が増加
  2. 鉄吸収調節ホルモン「ヘプシジン」が増加
  3. 鉄吸収率が下がる

こうした構図が考えられます。

運動によるヘプシジンの増加は運動の3~6時間後に最大になることが分かっています。

Effects of exercise on hepcidin response and iron metabolism during recovery.

Training surface and intensity: inflammation, hemolysis, and hepcidin expression.

Effect of exercise modality and intensity on post-exercise interleukin-6 and hepcidin levels.

炭水化物(グルコース)の不足がIL-6の上昇をひきおこす

マラソンランナーは試合の数日前や前日に多めに炭水化物をとって試合当日のエネルギー確保をします。 

これは一般的にカーボ・ローディングとよばれます。

もし炭水化物が不足した状態で長時間の持久運動をするとどうなるのでしょうか?

食事からの炭水化物は骨格筋や肝臓にグリコーゲンとして貯蔵され必要時にエネルギー源として使われます。

からだの生化学ー筋肉と肝臓におけるグリコーゲン代謝の違い
引用:からだの生化学

こうしたグリコーゲンが少ない状態で運動をすると、肝臓において新しく糖を生み出す「糖新生」が行われます。

  • 乳酸
  • ピルビン酸
  • アラニン
  • アスパラギン酸
  • グリセロール

こうした材料を使って糖新生が行われます。

ベーシック生化学-コリ回路
引用:ベーシック生化学

骨格筋グリコーゲン量が減少した状態でのトレーニングでは糖新生がすすむ一方で、IL-6が増加することが分かっています。

特に高強度の運動よりも低強度の運動においてIL-6は劇的に増加します。

「人間の収縮した骨格筋におけるIL-6遺伝子の転写活性化:筋グリコーゲン量の影響」
Transcriptional activation of the IL-6 gene in human contracting skeletal muscle: influence of muscle glycogen content.

人間の骨格筋を収縮させる際のIL-6産生は運動前における筋肉グリコーゲン量に影響を受ける
Interleukin-6 production in contracting human skeletal muscle is influenced by pre-exercise muscle glycogen content.

マラソンなどは低強度・長時間の運動ですから、IL-6が劇的に増加した状態が長時間続くことになります。

しかも練習のために頻繁に数10kmを走ることをくりかえせば、IL-6が劇的に増加している時間はますまず長くなっていきます。

IL-6の増加がヘプシジン増加をひきおこす

運動によりIL-6の分泌が増加すると鉄吸収調節ホルモン「ヘプシジン」も増加することが分かっています。

食事中の炭水化物の急激な調整・その後の炎症性・ヘプシジンの運動に対する反応
Acute dietary carbohydrate manipulation and the subsequent inflammatory and hepcidin responses to exercise.

この流れを一度整理すると下のようになります。

  1. 炭水化物が足りない状態で運動
  2. IL-6が増加
  3. 鉄吸収調節ホルモン「ヘプシジン」が増加
  4. 鉄の吸収率が低下
  5. スポーツ貧血

糖質制限で低炭水化物食をしたままマラソンなどの運動をおこなうと、思わぬ方向からスポーツ貧血になりやすくなります。

ですから糖質量を制限するとしても、スポーツ貧血を起こさない最低限の炭水化物量は確保することを忘れないでください。

それができなければスポーツ貧血どころか慢性のオーバートレーニング症候群におちいり長期的に競技を休むことにつながる可能性があります。

ダメージを受けるのは目に見える筋肉ではなく、目に見えない内臓です。

持久運動で増加したIL-6とヘプシジンが元に戻るには24時間必要

持久運動をして増加したIL-6とヘプシジンが運動前の数値にもどるのには24時間必要であることが分かっています。

長時間運動後の血漿IL-6、ヘプシジンおよび鉄濃度に対する炭水化物摂取の影響
The effect of carbohydrate ingestion on plasma interleukin-6, hepcidin and iron concentrations following prolonged exercise.

運動前・運動直後・運動24時間後のIL-6

運動前・運動直後・運動24時間後のヘプシジン

The effect of carbohydrate ingestion on plasma interleukin-6, hepcidin and iron concentrations following prolonged exercise

上のグラフを見ると運動時間後における詳細なヘプシジン量が分かります。

  • 運動前のヘプシジン量:15
  • 12時間後のヘプシジン量:30
  • 18時間後のヘプシジン量:23
  • 24時間後のヘプシジン量:12

つまり最低でも運動後21時間はヘプシジン増加による鉄吸収率低下が続きます

ということは、もしあなたが今日の夜20時に20kmジョギングしたとすれば翌日の17時までにとった食事からの鉄吸収率は低下している可能性が高いはずです。

つまり朝食・昼食あたりでしょうか。

そうするといつも通りの鉄量を吸収するためには夕食しかチャンスがなくなります。

ところがもしあなたが夕食前にその日もジョギングしたとすれば、またヘプシジンが増加し鉄吸収率が下がってしまいます。

そんな状態で夕食をとっても鉄の吸収率は低く、運動によって失われた鉄を食事から効率よくとることがむずかしくなります。

このように毎日運動し続けることは鉄吸収率が永遠に低い状態が続くことを意味します。

スポーツ貧血を予防するには「持久系運動を毎日やらない」

毎日運動することで鉄吸収率が低くなる状態が続くのであれば、解決法はかんたんです。

原則的に運動を毎日しないことです。

最低でも1日おきにすることで鉄吸収率の低下が続くことは避けられます。

また定期的に2日以上休んで鉄吸収の日を意識的につくることでスポーツ貧血からの回復が早くなります。

最低の努力で最大の結果を引き出すことが大切です。

どうしても毎日運動しなければならない時は、鉄吸収率が回復してくる運動21時間後あたりに食事時間をずらしてとるのも一つの方法です。

ただし一度の食事でたくさん鉄をとろうとすると逆効果ですのでその点は注意してください。

無駄な体の消耗は防ぎつつベストを尽くすというシンプルな原則に従うことで、あなたの競技力は今よりも向上する可能性があります。

鉄をたくさんとりすぎると鉄吸収率は下がることはすでに説明しましたが、それに加えて運動で鉄の吸収率が下がってしまえば貧血が治らないのも十分理解できます。

重度貧血の鉄吸収”究極テクニック”-「非ヘム鉄を少量」で最速の貧血解消

貧血を改善するためにはこうしたマイナス要素を一つづつ減らしていくことが大切です。

フェリチン(貯蔵鉄)が低いとIL-6が上がりにくい

もしあなたがスポーツ貧血ならば、フェリチン(貯蔵鉄)を高くしていくことも目標であるはずです。

低すぎるフェリチンは貧血と深い関係があります。

貧血を改善するためには一定量の鉄貯蔵が必要です。

しかしフェリチンは高すぎると鉄過剰傾向になり生体にダメージを与えます。

「鉄と老化」ー月経女性は鉄欠乏で病気減少&閉経女性は鉄過剰で生活習慣病

ですからフェリチンは「低すぎず、高すぎず」であることが大切です。

このようにフェリチンが適度な状態にあるとヘプシジンが増加しにくくなり、結果的に鉄吸収率を高く保てることが分かっています。

 

Iron Status and the Acute Post-Exercise Hepcidin Response in Athletes

上のグラフは運動前・運動後のヘプシジン増加量をフェリチン別に分類したものです。

フェリチンが30以下のケースがもっともヘプシジンの増加が低くなっています。

つまり「フェリチンが30以下だと運動をしても鉄の吸収率が下がりにくい」ということです。

一方でフェリチンが1~20くらいだとどうしても鉄欠乏のデメリットのほうが大きくなりがちです。

そういう意味ではフェリチンの理想的な値の一つの目安が30といえるかもしれません。

ただ誤解のないように言っておきますが、フェリチンが30よりも高い人が無理に30まで下げればいいというものではありません。

適切に鉄を摂取してヘモグロビン値・赤血球数の改善をしていくことが優先されます。

それができた上でヘプシジンをむやみに増加させないような生活習慣ができれば鉄の吸収に悩むことも少なくなっていきますし、フェリチンも無駄に上下することはないでしょう。

そうなればサプリや鉄材で鉄をとらなくても食べ物から鉄をしっかり吸収できるようになります。

とくに無機鉄である野菜からの鉄を上手にとりいれることが大切です。

重度貧血の鉄吸収”究極テクニック”-「非ヘム鉄を少量」で最速の貧血解消

鉄をたくさんとるよりも必要量だけを確実に吸収することを考えてください。

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女子アスリートがおちいりやすい3項目

女性アスリートがおちいりがちな健康上の問題点として「女性アスリートの三主徴」なるものがあります。

  • 利用可能エネルギー不足
  • 運動性無月経
  • 骨粗しょう症

利用可能エネルギー不足

あなたがスポーツをするなら、”基礎代謝+日常生活のエネルギー+運動”のエネルギーが必要です。

エネルギーが十分になければホルモン分泌も低下し、運動ができないどころか日常生活にまで支障がでてきます。

鉄不足もある意味でこちらに該当します。

ヘプシジンが増加してしまえば、意識して鉄をとっても鉄によるエネルギー不足は改善できません。

運動性無月経

  • 月経が3か月以上停止した状態
  • 無月経の原因が運動

この条件がそろえば運動性無月経です。

もちろんこれは閉経とは無関係です。

「無月経になってしまえば経血による鉄の流出もなくなるから都合がいい」

などと考える人もいるかもしれません。

しかし運動性無月経は背景にホルモンバランスの崩れがあり体にとって望ましい状態ではありません。

ホルモンバランスの崩れはあらゆる疾患につながっていきます。

骨粗しょう症

骨量が減少して骨密度も低下し骨折しやすい状態が骨粗しょう症です。

これは無月経によるエストロゲンなどのホルモンバランスの崩れによってもおこります。

また、摂取エネルギー不足による栄養不足でもおこります。

 

摂取エネルギー不足・運動性無月経・骨粗しょう症は相互に関係しています。

スポーツ貧血を改善するうえでも女性アスリートの三主徴はとても大切です。

思い当たる要素があれば一つづつマイナス要素を潰していき、健康につながる運動について改めて考え直すことをおすすめします。

体が壊れる限界に近い量・強度の運動をし続けてみたい人もいるかもしれません。

それは本人の自由です。

ですが健康を保ちたい、長く運動を続けたいと思っているのであれば女性アスリートの三主徴をもっと真剣に考えてみてください。

 

IL-6を下げるアスタキサンチン

アスタキサンチンをとることでIL-6が低下することが分かっています。

アスタキサンチンがIL-6の産生を低下する
Down-regulation of IL-6 production by astaxanthin via ERK-, MSK-, and NF-κB-mediated signals in activated microglia.

これによりヘプシジンの増加を防ぐことで鉄吸収率の低下もおこさずスポーツ貧血を予防することが可能です。

ただし、こうした抗酸化物質は運動後にとると逆効果で逆に酸化を促進するという説もあります。

これはビタミンCやビタミンEにもあてはまります。

ですからアスタキサンチンを摂取するなら運動後をさけ、時間をあけてからとることをおすすめします。

 
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 溶血を防ぐには「かかと着地→フォアフット着地」

マラソンなどの着地による溶血はスポーツ貧血の大きな原因の一つです。

さらに溶血は「着地の仕方」によっても変わってきます。

札幌国際ハーフマラソン(2004年)の調査では、ランナーの着地タイプは以下のようになりました。

  • フォアフット(足裏前域):1%
  • ミッドフット(足裏中域):23%
  • リアフット(かかと):75%

このようにほとんどのランナーはかかと着地をしています。

人間は長い歴史の中で長距離を走る「持久狩猟」をしてきました。

これは動物を長時間追い続けることで体力的に追い込んだ後に捕らえる狩猟法です。

そうした時の着地法はすべてフォアフットでした。

フォアフット着地は素足に近い状態でも地面からの衝撃を吸収し、大きな音をたてずに走ることも可能です。

これはクッション性がある靴をはかなければ実現できないかかと着地とは対照的です。

フォアフット着地こそが人間本来の走り方であるといわれています。

2011年のベルリンマラソンで世界新記録を樹立したマカウ(ケニア)はフォアフット走法です。

地面からの衝撃を減らして溶血をなくすためにはフォアフット着地が最適です。

もっとも今までかかと着地をしてきたのであれば、脚にはかかと着地に適した筋肉がついているはずです。

そこからフォアフットに切り替えて脚力をつけるには長い時間がかかります。

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とりあえず現時点では、「溶血をなくすにはフォアフット着地という選択肢もあるのだ」ということを知っておいてください。

 

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