鉄は生体内にもっとも多い金属元素

鉄が体内で一番多いミネラルだということをあなたは知っていますか?

体内の鉄の量は成人男性で3,000~4,000mg、女性で2,000~3,000mgもあるんです。

これほど多いからにはきっと体にとって重要な役割があるからに違いありません。

鉄は酸素を全身に運搬する運び屋

全身の細胞の分裂や増殖、様々な代謝に鉄はかかせません。

その中でももっとも大切な鉄の役割は「酸素を全身へ運搬」することです。

もともと酸素は生物にとって有害な物質でした。

地球上に生物が誕生したころは酸素はそれほど大気中に存在していなかったため、酸素を呼吸しないで生きる細菌類(嫌気性生物)しかいませんでした。

しかし光合成細菌の出現により太陽エネルギーを元にして大気中に大量の酸素が放出されるようになってきます。

すると酸素に適応し酸素を使ってエネルギーを生み出すことができる好気性生物が登場します。

私たち人間も好気性生物です。

有害な酸素を体内にとりこむために好気性生物は鉄を利用します。

ほとんどすべての動物・真菌類、そしていくつかの細菌が好気性生物です。

植物も犬も猫も鳩も鮭も、わたしたちの身の回りで生存するあらゆる生物はすべて好気性生物であり鉄を利用して生命を維持しています。

鉄は生命を支える「命のミネラル」と言えるでしょう。

鉄は生命を支える「命のミネラル」

鉄はミトコンドリアでエネルギーを産生する

人間は生体の細胞内にあるミトコンドリアでエネルギーを産生しています。

鉄はミトコンドリアでエネルギーを産生するための酵素を活性化させる役割をもっています。

  • チトクローム
  • フラビン酵素
  • アコニターゼ
  • P450

こうした酵素の中に鉄がふくまれています。

呼吸や代謝は鉄がミトコンドリア内で働くことでスムーズに進んでいます。

ミトコンドリアと鉄

鉄は酸化されやすい物質-「フェントン反応」

ところが鉄は酸化されやすい(錆びやすい?)ミネラルです。

鉄なべもメンテナンスしないとすぐ錆びついてしまいますよね。

ですから酸素が危険な物質であったのと同じように、鉄も適切にあつかわないと危険な物質に変わります。

生体内の鉄は二価鉄(Fe²⁺)と三価鉄(Fe³⁺)イオンとして存在します。

また体内には様々な反応により過酸化水素(H²O²)が発生します。

慢性肝疾患委おける鉄毒性と徐鉄治療ー過酸化水素(H2O2)を生じる生体内反応
引用:慢性肝疾患における鉄毒性と除鉄治療―C型慢性肝炎を中心に

二価鉄(Fe²⁺)が過酸化水素(H²O²)と反応すると三価鉄(Fe³⁺)とともにある物質が発生します。

それはヒドロキシラジカル(OH・)です。

ヒドロキシラジカルは「他の物質から電子を奪いとって酸化させようとする物質」でありフリーラジカルとよばれます。

このように鉄などの金属イオンが過酸化水素(H²O²)と反応してヒドロキシラジカル(OH・)を発生させる反応をフェントン反応といいます。

フェントン反応によって生じるヒドロキシラジカルはフリーラジカルの中でも最も反応性が強い酸化物質です。

ヒドロキシラジカルはライソゾーム膜、細胞質膜、核膜、ミトコンドリア膜などを障害するだけでなくカスパーゼ・カスケードの活性化によるアポトーシス(細胞自死の誘導)、脂肪鎖の過酸化などにつながり細胞傷害をひきおこします。

さらにヒドロキシラジカルはガンの原因の1つといわれています。

フェントン反応2

鉄の酸化されやすい性質を電子の観点で見ると、「鉄は電子の受け渡しをしやすい」ということになります。

フェントン反応からもわかる通り、2価鉄は3価鉄になるときに電子が1つ奪われます。(Fe²⁺⇒Fe³⁺+e⁻)

ですから鉄は放っておくと活性酸素を生み出してしまう危険な物質なのです。

鉄は体内のどこにあるのか?

鉄は体内で様々な形で存在します。

  • 赤血球(60~70%)⇒ヘモグロビン(酸素の運搬)
  • 肝臓・脾臓(30~35%)⇒フェリチン(貯蔵鉄)
  • 筋肉(3~5%)⇒ミオグロビン(酸素の貯蔵)
  • 血液(0.1%)⇒トランスフェリン(鉄の運搬)

この一覧を見るとトランスフェリンの量がとても少ないことが分かります。

これは「動いている鉄がとても少ない」ことを示しています。

つまり、ほとんどすべての鉄は内部に貯蔵された形で存在しています。

C型肝炎・脂肪性肝炎 鉄制限療法ー鉄の代謝
引用:C型肝炎・脂肪性肝炎 鉄制限療法で肝臓を守る

鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改定第2版ー人体での鉄イオンの存在様式とその機能
引用:鉄剤の適正使用による貧血治療指針

鉄とヘモグロビン

赤血球の中にあるヘモグロビンは鉄を体中に運搬する役目をしています。

このヘモグロビンは4つのサブユニットから構成されています。

各サブユニットはヘム部分とグロビンと呼ばれるタンパク質部分(α鎖、β鎖)が結合したものです。

このヘム部分に1つの酸素分子が結合することでヘモグロビン1分子は酸素を4分子運ぶことができます。

グロビン1つあたりの分子量は16000で鉄の分子量は56あります。

分子量56の鉄1分子を運ぶのに16,000もの分子量をもつグロビンが使われていることからも鉄の危険性がよく分かります。

イメージとしては「グロビンという名の鎧で鉄を包んでいる」感じでしょうか。

ヘモグロビンの仕組み3

鉄とミオグロビン

筋肉の中にあるミオグロビンは鉄を筋肉に運搬する役目をしています。

血液中のヘモグロビンから運ばれた酸素が筋肉でミオグロビンにひきわたされます。

ヘモグロビンと同様に、ミオグロビンも鉄の危険性を封じるため17,800という分子量で分子量56の鉄をつつみこみます。

一つだけヘモグロビンと違うのはミオグロビンのほうが酸素と結合しやすいことです。

これは筋肉がいつでもエネルギーをだせるように筋肉中に確実に酸素を蓄えるための機能です。

ミオグロビンと鉄

 

鉄の輸送専門トランスフェリン

ヘモグロビンは鉄を運搬していますが、自身が壊れてしまうまでは鉄を放出しません。

鉄をとりだすためには何らかの形でヘモグロビンを壊す必要があります。

そういう意味ではヘモグロビンは「純粋な鉄の運び屋」とはいいがたい面があります。

一方でトランスフェリンは鉄を運搬するだけでなくかんたんに放出することができます。

ですから本当の意味での鉄の運び屋はトランスフェリンなのです。

ここで復習すると、ヘモグロビンのグロビン分子量が16,000、ミオグロビンの分子量が17,800でしたね。

それにくらべてトランスフェリンの分子量はなんと80,000もあります。

鉄のおよそ1,000倍以上の分子量で鉄を包み込んでいることになります。

これを例えていうなら「凶悪犯を厳戒態勢を敷きながら護送する警察のイメージ」でしょうか。

鉄に対して体はこのように厳重な防御網を作っています。

トランスフェリンと鉄1

フェリチンはいつでも使える貯蔵鉄

フェリチンは鉄が足りなくなった時にいつでも使えるように肝臓などに蓄えられている貯蔵鉄のことです。

フェリチンの分子量は440,000あります。

フェリチンはヘモグロビンやトランスフェリンと比較してもずっと大きなものです。

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フェリチンは内部が空洞になっており、ここに鉄を貯蔵します。

1つのフェリチンに最大4,500個の鉄が貯蔵できるといわれています。

トランスフェリンでもそうでしたがフェリチンの分子量から分かるように鉄に対して最大級の防御網が張られています。

肝臓・脾臓で鉄を保存しますから、鉄の毒性から生命にとって重要な臓器を守らなければなりません。

それがフェリチンの分子量が44,0000である理由です。

「大事な鉄であると同時に危険な鉄」

このことを象徴しているのがまさにフェリチンです。

フェリチン

鉄はリサイクルして使われる

鉄は食事から吸収されますが、一度ため込まれた鉄が体外へ排出されることはほとんどありません。

基本的に人間は鉄を排出するシステムはもっていないのです。

さきほど上で触れましたがほとんどの鉄は赤血球のヘモグロビン・肝臓や脾臓のフェリチンとして貯蔵されています。

これらを失うことは体内の酸素を失うことを意味し、生命にとって危機的状況です。

実際に事故やケガなどで流血があると命の危険が迫ってきます。

ですから鉄を排出するシステムは生命にとって重要なものではありません。

鉄排出をする唯一の例外が女性の月経です。

 

こうした事情により体内のほとんどの鉄はリサイクルによってまかなわれています。

月経があることを考慮してもほとんどの鉄はリサイクルを通して供給されます。

リサイクルシステムの中心はヘモグロビンです。

ヘモグロビンがある赤血球の寿命は120日ほどです。

ですからヘモグロビンにふくまれる1,800mgほどの鉄も120日単位ですべて入れ替わっています。

これを1日当たりにすると20~25mgの赤血球が壊されてまた造られています。

1日に吸収・排出される鉄量は約1mgですから、吸収・排出される鉄の20~25倍に当たる鉄がリサイクルシステムの中で動いているのです。

1~2mgが入ってくるかどうかより、この20~25mgがしっかり機能しているかどうかのほうが体にとっては重要です。

直近の問題としてすぐ解決したいのがリサイクル鉄の再活性であり、長期の目標としていずれ解決したいのが鉄吸収の不良ということです。

貧血になやむほとんどの人は、何らかの原因で鉄のリサイクルシステムがうまく働かなくなっていることが考えられます。

(フェリチンが1~10くらいの人は例外です さすがに材料不足すぎて短期的な直近の問題になってきます)

このへんは後ほど詳しくまとめたいと思います。

C型慢性肝炎に対する瀉血マニュアルー生体内での鉄の働き

引用:慢性肝疾患における鉄毒性と除鉄治療―C型慢性肝炎を中心に

鉄の体内への出入り

上の図にも掲載されていますが、鉄の吸収は基本的に1日1mgほどです。

(月経のある女性や成長期の子供では1~2mg)

また腸の粘膜上皮や皮膚の脱落で排出される鉄は1日1mgです。

これはサプリメントでたくさんの鉄をとっているあなたにはとても少ない量に思えるはずです。

ですが、たくさんの鉄をサプリメントでとったところで吸収されるのは1日せいぜい1~2mgほどなのです。

しかも多量の鉄をサプリメントでとることは逆にあなたの体調を崩すことにつながっていきます。

ここら辺のサプリメントのとり方は後ほど記事にしますのでご期待ください。

 

鉄が体内に入る特別な機会としては、手術の際の輸血があります。

200mlを輸血した際には100mgの鉄が体内に入ります。

逆に鉄が体外に排出される特別な機会としては、病院での血液検査による採血・献血などがあります。

どれもかなり特殊な例であり鉄の吸収・排出が少ない状況であることが分かります。

鉄の体内への出入り

生体内の鉄の種類

ヘム鉄

ヘム鉄はヘモグロビン(血中)としての形が最も多いが, ミオグロビン(筋肉)にもふくまれており,酸素の供給に機能しています。

ヘム鉄は主に2価(Fe²⁺)の状態で存在します。

その他にもヘム鉄は

  • シトクロム
  • オキシゲナーゼ
  • ぺルオキシダーゼ
  • 一酸化窒素合成酵素
  • グアニル酸シクラーゼ

など数多くの酵素にふくまれ生体に欠かすことのできない機能を担っています。

非ヘム鉄

非ヘム鉄としては,循環血液中のトランスフェリンに結合した鉄や、トランスフェリンが鉄で飽和状態になったときにアルブミンなど他の血清タンパクと結合して生じる非トランスフェリン結合鉄が挙げられます。

いずれも,非ヘム鉄として3価(Fe³⁺)の状態で存在しています。

その他、細胞内では鉄はフェリチンやヘモジデリンによって貯蔵されているが, これらも非ヘム鉄です。

自由鉄

細胞内では大部分の鉄はフェリチンやヘモジデリンによって隔離・貯蔵されています。

同時にわずかながら自由鉄が不安定鉄プール(labile iron pool :LIP)として存在しています。

LIPはクエン酸やATP(エネルギー物質)などと結合して低分子鉄複合体を形成し,細胞内での鉄の需要に応じた鉄の移動に重要とされています。

これらの自由鉄は細胞内における活性酸素の産生に深く関わっています。

過剰鉄が悪さをするのもこうした自由鉄によるものです。

慢性肝疾患における鉄毒性と徐鉄治療ー生体内における鉄の存在様式
引用:慢性肝疾患における鉄毒性と除鉄治療―C型慢性肝炎を中心に

鉄のリサイクルと出入りのまとめ

  • 鉄の吸収は基本的に1日1mg
  • 排出される鉄は1日1mg
  • 体内の鉄のほとんどがリサイクル使用されている
  • 貧血を改善するためには鉄リサイクルシステムを復活させることが重要
  • サプリメントで多量の鉄をとることは無意味どころか逆効果
    (どのくらいの量から逆効果になるかも後ほど説明します)

リサイクルシステムがうまく働かないと体内の鉄の機能のほとんどが働かなくなります。

毎日1~2mgの鉄を体内に吸収させることも大切ですが、体内のリサイクルシステムをしっかり働かせることはもっと大切です。

なぜリサイクルシステムがうまく働かなくなるのかはあるホルモンが関わっていますがそれは次回のブログにて。

多量の鉄サプリをとっても一向に貧血が解消しないあなたは必見ですよ!

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※このブログ記事は水口隆先生の発表を参照しています。

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